本田教授のアラビア書道芸術論

アラビア書道家として、今や世界的にも高い評価を受けている、本田孝一・大東文化大教授の話を聞く機会があった。3月上旬、サウジアラビアの首都リヤドで開催された国際ブックフェアーに招待された時の模様を聞くのが主な目的だった。
このフェアーで、本田教授は、「アラビア書道と私の経験」、「アラビア書道の審美理論」と題した2回の講演をアラビア語で行ったという。前者は、本田氏のこれまで歩んできた道がテーマ。後者は、アラビア書道の美しさを理論的に解明しようという、本田氏にとっても、初の試みだった。

本田氏によると、アラビア書道の世界では、これまで、その美しさについての理論的アプローチはなかったという。イスラム教に関わるものということもあり、「神聖なものということで、(理論には)あまり触れられてこなかったのでは」という。

アラビア語を知らない人でも美しいと感じるのはなぜか」。この疑問について、本田氏は、「水が流れる線、木々が揺れる様子、山の稜線」などの自然(の美しさ)と、書道の線が類似しているからでは、との持論を展開する。

本田氏によれば、西洋のカリグラフィーは、機械的、無機質的であるのに対し、アラビア書道の線は、人工的ではない。多くの日本人がアラビア書道にひかれるのも、「日本人が最も愛する自然」がそこにあるからでは、という。

では、なぜ、アラビアの地にそうした書道ができたのか。本田氏は、(砂漠が多い過酷な風土の中で)「自然にあこがれ、精神世界の中に自然を生み出そうとしたのでは」との見方を示す。イスラム教という宗教の発生も「生活環境の中での必然性があるのでは」という。