アラブ世界全体を視野に

【カーゼム・アッサーヘルという歌手4】
カーゼムの名を一躍、アラブ世界全体へと広めたのは、名曲「アナ・ワ・ライラ」(私とライラ=1998年)だろう。ライラ(アラブ女性の名)に振られた男性の鬱々とした心の内を歌った曲だ。この曲は、英BBC放送が行った世界のヒット曲人気投票で、クイーンの「ボヘミアン・ラブソティ」を上回る第6位にも入っているほどだ。
さらに、英国の有名オペラ歌手、サラ・ブライトマンとのデュエット曲「The War Is Over Now」は、カーゼムの世界的知名度を押しあげるのに大きく貢献した。イラク戦争前夜の2003年2月の米国ツアーも成功をおさめ、世界的にみても、押しも押されもせぬアラブのトップスターの地位を確立したといえるだろう。
 カーゼムを語る上で欠かせないのは、正則アラビア語(フォスハー)による曲が多いという点だ。アラブ音楽界では、アラブ世界各地で差異のある口語方言で歌うのが一般的だ。カーゼムがフォスハーで歌う理由は、本人の口からはっきり示されたことはない。カーゼムに近いあるエジプト人記者は、「カーゼムは、アラブ全てが祖国と考えている」と、その理由を説明する。アラブ世界全体にアピールするためには、フォスハーでうたう方がいい、という考えなのだろうか。