「自由なイラク」に育まれ

【カーゼム・アッサーヘルという歌手2】
カーゼム・アッサーヘルは、1961年、イラク北部モスルで生まれた。父は家具職人。本人によれば、父はイスラム教スン二派、母はイスラムシーア派だという。12歳の時、自らの自転車を売って、ギターを買う。その年、初めて曲を作る。その後、バグダッド音楽院に進学。そこでは、アラブの伝統楽器ウードを習う。2004年に来日したイラク人ウード奏者、ナシール・シャンマは、バグダッド音楽院でクラスメートだった。
「1970年代の自由なイラクで育つことができて、幸せだった」。カーゼムはそう回想する。イラクで70年代という時代は、原油価格の高騰などによる好況にも支えられ、文化人たちもその活動を最も謳歌した時代といわれる。国民の抑圧と対外侵略を繰り返したサダム・フセイン政権が登場するのは、1979年、イラクの戦争の時代が始まる「イラン・イラク戦争」のぼっ発は、1980年のことだ。