アラブ音楽の本流を行く歌手

【カーゼム・アッサーヘルという歌手1】
カーゼム・アッサーヘルという歌手がいる。イラク生まれの44歳。メジャーデビューから10年たらずで、世界でアルバム3000万枚を売ったアラブ音楽界のスーパースター。
音域の極めて広い天賦の美声を持つこの男を、アラブ世界の音楽ビジネス界は、シンセサイザーを使った「ポップ・ロック」歌手に仕立てようとした。だが、「私が、(アラブ)古典音楽とオーケストラのエッセンスを融合させることで、ポップス界をリードしたいと考えていることを理解していない」と喝破するカーゼムは、アラブの大衆ポップスの要素も取り入れながらも、本質的には、アラブの伝統歌謡の歌い手としての立場をかたくなに守ってきた。「今、アラブで多くの”お子さま”たちが作っているテクノ(音楽)」は好まない、とも直言する。
2004年にリリースされたカーゼムの最新アルバム「Ila Tilmitha」は、そうしたカーゼムの「伝統主義」がより鮮明になったアルバムと言える。
カーゼムこそ、ウンム・クルスーム、アブデルハリーム・ハーフェズといった伝統的アラブ歌謡というアラブ文化の「珠玉」を継承する歌い手であることは間違いない。(写真は、2004年1月4日、カイロの自宅でピアノ演奏を披露するカーゼム。cカフェバグダッド