「アラブ・ミュージック その深遠なる魅力に迫る」

「アラブ・ミュージック その深遠なる魅力に迫る」と題したアラブ音楽本がこのほど刊行された。カフェバグダッド第一弾のゲストにお招きした中町信孝氏から、わざわざ送っていただいた。多謝。
この本、国際交流基金が2006年に実施した「中東理解講座」という連続講義の内容を一冊にまとめたもの。出版社は、東京堂出版。神保町の、あのユニークな老舗本屋の出版部門のようだが、ほかにも民族音楽や日本の古典音楽に関する本も出している様子。というか、「イスラーム辞典」(黒田壽郎編)なども出していますね、よく考えると。

中町氏は、第六章を担当、「現代アラブポップスに見える民衆の心象に迫る」と題し、1990年代から、衛星テレビが飛躍的普及を遂げた2000年代前半のアラブ世界のポップス音楽の潮流を紹介している。
第一章は、「ル・クラブ・バシュラフ」の活動で知られる松田嘉子氏による「アラブ音楽の見取り図」。ほかにも「アラブの楽器と音楽構造」(若林忠宏氏)、「アルジェリアのポップ音楽」(粕谷祐己氏)、「モロッコのグナワにおける現代アラブ音楽の新たな潮流」(サラーム海上氏)、「アラブ世界周辺の音を巡って」(関口義人氏)などもりだくさん。

さまつかも知れないが、一点、気になったのは、帯や、冒頭に収録されている地図などに使われている「アラブ・イスラーム世界」という言葉。どうも、「アラブ世界」+「イスラームイスラム)世界」という意味で使っているようだが、この本はそもそも、アラブ世界とその周囲の音楽を扱っている本なわけで、わざわざ「アラブ・イスラーム世界」という言葉を使う意味があったかどうか。
なぜなら、「アラブ・イスラーム世界」という言葉は、文字づらだけで読めば、「アラブ世界」の中の「イスラーム世界」あるいは、「アラブ世界」=「イスラーム世界」と解釈される可能性もあるわけだから。

こんなことを考えたのは、2007年に外務省が主催した「日本・アラブ・イスラム・ジャーナリスト会議」で、その会議のタイトルにある「アラブ・イスラム」という言葉づかいの問題点がアラブ人によって指摘されたことを思い出したからだ。詳しくは、この拙ブログ記事を参照。

ついでに。まったくの蛇足だが、「イスラームイスラム)世界」という概念そのものの問題については、羽田正氏の「イスラーム世界の創造」という本が論じている。

これは、酒井啓子氏の同書の書評